MEMS Engineer Forum 2014が、2014年4月25日(金)に開催されることが決まりました。今回は、米国を中心とするMEMS関連団体である、MEMS Industry Group(MIG)と連携したイベントとなることが大きなポイントです。
MIGは、MEMS関連の約150社・団体が参画し、MEMS産業の活性化を目的とし、情報サービスやシンポジウムといった活動を展開している、いわばMEMS工業会的な役割を担っている組織です。参加者のビジネスマッチングに重点を置くイベント、MIG Executive Congressでは、パネル討論やゲストによる講演を中心としたプログラムで好評を博しています。
今回は、前日の4月24日(木)に、MIGがアジアでは初となる講演や討論を中心とするイベント、MIG Conference Japan 2014を開催し、翌日の25日(金)に、MEMS Engineer Forumが開催されます。この連携によって、われわれMEMS engineer forumとMIGの双方の力が結集し、現在と将来のMEMS分野の基盤を支え、世界各地の研究と産業化を一体化させて結びつけ、今後の可能性が示されるような2日間となるでしょう。
●研究と産業の場が離れつつある懸念を解消
わたしは、近年、MEMS分野の研究と産業の場が、離れつつあることに懸念をいだいていました。例えば、以前は、IEEEなどが主催するMEMS関連の学会が、研究と産業の両方に寄与する場として、両方の関係者が集まり、議論する場となっていたのです。
しかし、最近では、MEMS関連の学会は、研究のみを代表する場となってしまい、産業界の主要人物が発表したり、議論する場ではなくなる傾向が強まっています。
米国でMIGが発足し、産業を代表する場となりつつあるのも、こうした受け皿を求めてのことでしょう。
欧州でも、同じように研究と産業の場の乖離の問題があるようです。Fraunhofer Institute for Electronic Nano Systems(Fraunhofer ENAS)のThomas Gessner氏なども、最近は学会よりも、自身が関わる産業化に特化したイベント「Smart Systems Integration」に注力しています。やはり、産業化に寄与しようとすると、材料やパッケージなど、研究としては地味な内容への取り組みが増えてくるため、どうしても研究に偏る場では、合わなくなってきているのだと想像しています。
このような状況の背景には、そもそも、研究と産業の活動の間に、隙き間ができてしまっている問題があります。例えば、わたしが講演で使っている、「日本における研究と産業の乖離」を示す図には、欧米の関係者から、日本だけの問題ではなく、海外でも似たような状況にあると、指摘されたりします。
●人的な交流や議論を重視
日本でも、同じように、研究と産業が一体化した場を築き、両者を発展させようという狙いから、われわれが、MEMS Engineer Forumを主催する、MEMSパークコンソーシアムを発足させ、活動を続けてきました。
米国と日本の間に、研究や産業の環境の違いはありつつも、似たような問題意識を持つ組織として、MIGとMEMSパークコンソーシアムは、2010年夏以降、交流を深め、同年10月には、提携を結ぶことで、関係を深めてきました。
MIGの活動の特徴は、米国ならではのMEMSベンチャー企業を中心とする情報交換と、関係者同士の交流にあります。研究開発の成果を、ファブレスのベンチャーとして事業化し、その事業化に向けて、ファウンドリーがアイデアを具現化していくとともに、こうした成果を買い取って、自社の事業と融合させて発展していこうとする大企業が、それぞれの役割を果たすことで、米国のMEMS全体が発展しています。こうしたスタイルのため、情報の交換や人的な交流が重要となり、これらに関わる研究者、ベンチャー企業の関係者、ファウンドリー企業、大企業を中心とする交流が図られる場となっています。
このため、MIGのイベントには、欧州で成功した事例、例えば、伊仏STMicroelectronicsやフィンランドVTTなど、参考になる研究開発の事業化を成し遂げた関係者が招待され、講演やパネル討論が充実したものとなっています。
日本でベンチャー企業というと、中小企業、家内工業といった印象の事業が多く、その振る舞いも、中小企業的なものになることが多いですが、米国のMEMSベンチャーは、最初から大きな発想で事業に望んでいるためか、買収相手も大企業を狙ったり、飛行機ではビジネスクラスの座席に乗り、立派なホテルに泊まるなど、対照的なことです。
●産業化に向けた交流がより強まる場に
われわれの取り組みも、こうした、いかに産業に役に立つのかを追求してきました。 そして、日本には、MIGやFraunhoferが指向しているような、工業会のような存在が欠けていることから、MEMS engineer forumを、こうした場として発足させ、発展させてきました。さらに、今回、同じような意向を持つMIGと連携することで、相乗効果が生み出され、より産業化に向けた交流の要素が強まっていくでしょう。
MIGが日本でイベントを開催する意味は、主に二つあると想像しています。一つは、独自の研究開発を行っていることです。もう一つは、応用システムが強い国であることです。
日本の研究、産業に関わる方々にとっては、海外のMEMS関係者が感じている、こうした利点を生かしていくことが、強みになってくるでしょう。そして、日本の皆さんには、聴講や出展を通じて、優れた成果を持つMEMS Engineer Forum、MIG Conference Japan 2014両方の講師や討論者たちと活発に議論し、MEMS関連分野の産業化に向けた活動の場として、活用して欲しいと考えています。
(取材・写真:加藤伸一)
Sinichi Kato is a freelance writer and editor specializing in MEMS, semiconductor, display, and energy-related technologies. He also conducts various projects in research, event planning and consulting on a broader range of topics such as electronics, city planning, lifestyle, and culture.
From 2008 to 2010, Mr. Kato worked as a staff writer and editor for the Nikkei Microdevices magazine and the Tech-On! online technical media at Nikkei Business Publications. Before joining Nikkei Business, he worked for Electronic Journal, Inc. as a staff writer and editor for Electronic Journal, a publication dedicated to electronics, since 2002. Mr. Kato graduated from Chuo University in Tokyo in 1999 with a BA degree in literature.
加藤 伸一 略歴:
MEMSや半導体、ディスプレイやエネルギー関連デバイスなどの専門誌における経験をもとに、エレクトロニクスから街づくり、衣食を中心とした生活、文化関連まで、幅広い分野で活動するジャーナリスト。
2002年~2008年 株式会社電子ジャーナル(Electronic Journal, Inc.)にて、エレクトロニクス専門誌「Electronic Journal」の記者。
2008年~2010年 株式会社日経ビーピー(Nikkei Business Publications, Inc.)にて、電子でバイス専門誌「Nikkei Microdevices」や、技術系webサイト「Tech-On !」の記者。
2010年~ フリーランスのジャーナリストとして、各種調査、イベント企画、コンサルティングなどの領域で活動中。