MEF2017開催が近づいて参りました。今回は私の専門分野のひとつの光デバイス工学の観点から光産業とMEMSに関連したご報告をしたいと思います。
●国内の光産業の動き
我が国では1980年頃から光の利用技術が大きく進展しましたが、それには我が国が先導的役割を果たした光ファイバーや半導体レーザなどの研究開発が契機となっています。また産業界・学界・官界のそれぞれにおける活発な動きと、それらの連携が大きな影響を及ぼしたことも忘れてはなりません。
それに伴い光産業が順調に発展し、一時は10兆円産業にまで成長しました。しかし、その後リーマンショックなど幾つかの危機を経て現在は8兆円(海外生産を含めれば約15兆円)の産業規模となっています。なお、ここでいう光産業とは、光学機器などを含まないオプトエレクトロニクス産業を指しています。筆者が委員長として携わっている(財)光産業技術振興協会の光産業動向調査委員会では毎年度「光産業動向調査」を発表しています[1,2]。
Fig. 1に30年以上にわたる光産業国内生産額の推移を示します。調査開始の1980年度以来、20年以上の長期にわたり成長を続けてきましたが、その後はITバブル崩壊による2001年の落ち込み、米国金融
不安に端を発する2008年度~2009年度のマイナス成長、2011年東日本大震災による低迷、世界不況並びに超円高等の試練等を経験してきました。その都度産業規模拡大を担う成長分野が現れており、昨今では太陽光発電分野とLED照明分野がその任を担うなど、ダイナミックな動きを示しています。
また同図には同時に名目GDPの変化と電子工業国内生産
額の推移を示してありますが、近年電子工業国内生産額は大幅な減少をしており、日本基幹産業の低落傾向を示しています。ただし、近年は海外での生産が主力となりそれを含めるとそれほど大きな減少ではなく、2010年頃からは国内・海外生産を合わせて40兆円程度の産業規模になっています。
Fig.2 には、国内生産額の分野別推移を示してあります。2000年のITバブル以降、ディスプレイ・固体照明分野やデジカメを中心とした入手力分野が急速な伸びを示して、一時はそれぞれ3.5兆円を超える産業として光産業を牽引してきました。しかし特に入出力分野は新興国の追い上げや市場縮小のため近年産業としても減少しています。ディスプレイ・固体照明分野では一時の減少傾向が止まり3兆円程度の産業規模を維持しています。また、この数年でダイナミックな動きがあるのが太陽光発電分野です。2012 年にスタートした固定価格買取制度(FIT)による多くの業者による急激な参入により、一気に2015年には3.5兆円程度の産業規模に達しました。しかしその後FITの制度変更と買取価格下落により産業規模が縮小しています。
一方、情報通信分野は約5000億円の産業規模ですが、幹線・メトロ系の伝送機器で減少傾向があるものの光部品が補う形で推移しています。近年着実な伸びを示しているのがレーザ・光加工分野です。同分野は最近では自動車産業を中心とする設備投資の増加の効果が大きいと見られています。またセンシング・計測分野は、産業規模は小さいものの近年のIoTやトリリオンセンサー等の動きに連れて堅調な伸びを示していて、今後の増加も期待されています。
なお、これらの分野の中で近年圧倒的に海外生産比率が高いのは情報記録分野であり、その値はほぼ80%です。入出力分野の海外生産比率はほぼ50%です。また国内生産維持型の分野は、レーザ・光加工を始めとして情報通信分野、太陽光発電分野などであり、海外生産率が20%程度以下と低いですが、センシング・計測分野は近年海外生産比率が増加して30%を越えています。
●光とMEMS
今後2020年頃までに世界のMEMS市場は年間2〜3兆円にまで成長し、出荷数量は年間で300億個に達するであろうと予測されています。またその中で光MEMS市場は2020年頃に約130億円の市場規模と言われています[3,4]。
光情報通信分野における大容量スイッチング用デバイスのように、光MEMSは従来から情報通信分野での活用が期待されていますが、我が国の光伝送用部品の海外も含めた全生産額が約3600億円ですので、光MEMS市場はまだまだ未開拓と言えましょう。
近年の光情報通信産業動向の特徴の一つは、長距離通信に加えてデータセンター内外の近距離大容量通信が主力になりつつあることです。特に動画コンテンツの大容量化やクラウドサービスの増加によりデータセンターへのアクセスが年々増加しています。そのためデータセンター内での光情報通信がより重要視されています[5]。また、無線通信の5G(第5世代移動通信システム)への進展により無線と光通信の連携がますます重要になっています。そのため携帯基地局用の光デバイスの需要増加も見込まれます。さらにデバイスとしては集積回路に適しているSiフォトニクスの進展に著しいものがあります。このよう中で着実にビジネスとして浸透していく光MEMS技術の動向に着目する必要があります。特に光MEMSは超高速処理というよりは大容量処理・一括処理・並列処理に威力を発揮します。またSiフォトニクスはSi を使うMEMSとも相性が良いと思われますので、今後の活用が期待されます。
●おわりに
あらゆるものがインターネットにつながり情報交換をしたり制御するIoT技術をベースに、CPS(Cyber Physical System、サイバーフィジカルシステム)による情報空間での実空間制御が進展しています。すでに、IoTや機械学習によるAIの進展などによりビッグデータ活用システムが当たり前になりつつある時、このネットワークを支える光伝送機器や部品はますます重要になります。
ただし前回も述べましたが、今後の光MEMSを含んだMEMSシステム技術に取って重要なことは「階層システム化」です。ネットワークにあらゆるものが繋がるIoTの世界では、個々のセンサーやアクチュエータ等のデバイスを利用した全体としてのシステム化が重要ですが、末端のデバイスをいきなりクラウドに繋げるのではなく、デバイスレベル、ノードレベル、エッジレベル、クラウドレベルでのシステム設計が必要です。その階層化されたシステムの中で個々のMEMSデバイスの機能と仕様の設計が必要となります。
このような中で、MEMS技術の開発には当初から明確なユーザーを想定するとともに、ビジネス領域での想定ユーザーとの対話を欠かさないことが重要でしょう。MEF2017がそのような重要な節目の技術のあるべき方向性について有益な議論がなされる場となることを期待しています。
参考文献
[2]光産業技術振興協会:「2016(平成 28)年度光産業全出荷額、国内生産額調査結果について」
[3]http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20150610/422600/?P=4
[4]http://www.group.fuji-keizai.co.jp/press/pdf/110125_11006.pdf
[5]
MEF 2017 Program schedule is available here.
MEF 2017プログラムはこちらで参照頂けます。
Info about ”MEF2017 Exhibition Features” is here.
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